講演は3件で、最初に「高知の寺田寅彦」と題して高知大学 および高知医科大学の名誉教授である上田壽氏、ついで 「寺田寅彦と中谷宇吉郎」の題で中部大学教授名古屋科学館館長 の樋口敬二氏、最後に「南極の今 -80℃の世界で氷を掘る」 を第36次南極観測隊隊員長岡技術科学大学助教授の東信彦氏 の順でお願いしました。
「高知の寺田寅彦」では、高知県立歴史民俗資料館が平成?年 に開館した際に寺田家より寄贈された遺稿などの資料整理を された中から、高知に関係の深い「孕のジャン」「海鳴について」 「大洋潮汐の副振動」「高知県下の龍巻について」 「土佐の国、南海岸の地形について」「海陸風と夕凪」及び「夕凪と夕風」 といった研究内容についての紹介がありました。 特に潮汐の研究では、早朝から晩遅くまでかかっていくつもの観測点 を移動してまわったり、短周期の潮位振動を取り出すための潮位計 の開発を行ったりといった、我々雪氷学に携わる者も一度は 経験したような作業を、当時の交通事情や測器の乏しい中で苦労して行って おられたということが、上田先生ご本人の経験も交えて印象的に語られました。
樋口先生の講演では、まず最初に四国の降雪について 愛媛県の谷口さんがおこなっている 研究の紹介をし、地元に雪氷学会の存在をアピールして いただきました。そして、本題の「寺田寅彦と中谷宇吉郎」の話では、 上田先生の「寅彦断章」にとりあげられている氷の研究の話、また 研究の着眼点として、当時はできるだけ単純化できる現象を 追いかける風潮であったのを、複雑な現象に着目していること などが紹介されました。特に「複雑」という点については 複雑「怪奇」も研究対象にしていることなどが、最近の超能力ブーム の問題にも触れるなどして興味深く語られました。 さらに、樋口先生が、中谷先生から戴いて「雪の科学館」 に寄贈した寺田先生のネクタイに関する裏話、 中谷・寺田に共通する問題解決型の研究姿勢や幅広い人的交流 などについてのお話がありました。
「南極の今」ではドームでの氷床掘削についてその目的と 掘削の進行状況がわかりやすく説明されました。なかでも 掘削を成功裏に進めるための準備における苦労話や、実際の掘削 での問題解決の話、 酸素が薄くしかも極寒の地での仕事や生活についての話 は、めったにこのような話を聞く機会の無い、地元の参加者には 深い印象を与えたようでした。
最後に樋口先生より、寺田・中谷の精神を受け継いで南極やヒマラヤ などで氷河・雪氷・地球環境の研究を遂行している新しい世代の 研究者に対し頭の下がる思いであるとの感想が述べられ、 寺田寅彦ゆかりの地での雪氷フォーラムが閉じられました。
当日はあいにくの雨(高知の雨は下からも降ると言われます)でしたが 約70名の参加で、会場の高知市立自由民権記念会館ホールの140席が 恥ずかしくない程度に埋まりまずまずの成功でした。はるばる東京 や石川県(中谷宇吉郎 雪の科学館) からの学会員の参加者の他に、 高知県内では「寺田寅彦記念館 友の会」を通じた宣伝や、高知新聞の学芸欄に紹介していただくなど のご協力があったおかげと、この報告の場を借りて感謝の意を表し たいと思います。
このツアーを行うに際して記念館、資料館の関係者の皆様のご厚意に 感謝するとともに、「とさ別館」の高本昌明さんには車を出して いただきましたことを記して感謝の意に代えたいと思います。